海賊宇宙船地球号獄中記

1995生 Even if my body is no longer and it becomes the enumeration of words, I certainly stayed here.

影響力の武器 part 2 返報性

 

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

 

 ・返報性の原理・・・固定的動作パターンの一つ。他人がこちらに何かの恩恵を施したら、自分も似たような形でそのお返しをしなくてはならない、という気持ちになる。

 発生原因・・・人間の社会は相互扶助なので、恩を返さないと不快になるように条件付けられた。返報性の原理を守らない場合、「恩知らず」のレッテルを貼られることがあるので、これを防ぐためでもある。(お返しを認めない人も嫌われる可能性がある)

 メリット・・・自分の与えたものが無駄にならないと分かっていれば、自分が他人に何かを与えることを躊躇しない。これにより相互依存性をもたらし社会を発展させる。

 デメリット・・・返報性の悪用。恩義を感じさせることで儲けをたくらむ相手にだまされてしまう。

 用例:試食、試供品・・・客にちょっとしたオマケやプレゼントを渡すだけで、売れる見込みのなかった商品やサービスが売れる。

 特徴

  1. 威力の大きさ・・・相手の好き嫌いを超越し、普段は断ることでも受けてしまう。
  2. 余計なお世話をされた場合でも恩義を感じてしまう・・・罪悪感を植え付けてコントロールする手口に使われる。例:「生んでやったんだから親の命令に従え」返報性を学べばこのことばがただの詐欺だと分かるだろう。「理由になってない」の一言を返すべし。
  3. 不公平な交換を助長する・・・恩義を受けっぱなしにしているという不快な感情を除去したいがために、お返しに、それよりもかなり大きな頼みを受けてしまうことが多い。

応用例:「拒否されたら譲歩」(譲歩的要請法)・・・最初の要請を拒否された場合、こちらが譲歩して、返報性を利用して相手にも譲歩させる。最初の要求を大きくすることで(大きすぎると逆効果)、知覚のコントラストと併用できる。最終的な決定は相手の譲歩で終わるため、交渉を終わらせた満足感と責任感で将来の同じような要求も通りやすくなる。

防衛法:相手の親切や要求が、ただの親切か計略か分からないので、とりあえずもらえるものはもらい、計略と分かったときにそれを計略だと再定義して、自分が何もお返しをしていない、という罪悪感を消す。 

 

part3に続く......

 

 

 

 

 

 

 

 

影響力の武器 part 1

 

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

 

  生物にはいくつかの行動パターンが入っていて、特定の信号刺激を受けると、それに応じた個々の行動が常に同じ形式同じ順序で起こる。これを「固定的動作パターン」と言う。

 例:七面鳥はピーピー泣くというだけで天敵を抱きしめ、ピーピー泣かないというだけでヒナ鳥を虐待したり殺したりする。偽の信号刺激を利用して敵をおびき寄せて捕食する虫もいる。

 固定的動作パターンは人間にも当てはまる。人間に見られる主な例は

  • 理由を添えると頼みごとが成功しやすくなる・・・「お願い」+「理由」の効果は絶大。「~ので」と理由を添えるだけで要求が通る確率が上がる。
  • 高価なもの=良いものと思う・・・売れ残った商品は値段を上げたほうが売れる。失敗しても値下げして本来の価格で売れる。
  • 権威への盲従・・・社会的地位の高かったり、「~の専門家」とつくと、その人物の発現を批判なしに受け入れてしまいやすい。
  • 知覚のコントラスト・・・二番目に提示されるものが最初に提示されるものとかなり異なっている場合、それが実際以上に最初のものと異なっていると考えてしまう。これを利用したマーケティングの例:先に高いものを買わせると、次に買うものがそれに比べて安いと錯覚して買ってしまう。

 固定的動作パターンの動物と人間の違い

  • 動物は生まれつきにより、人間は学習による。
  • 人間は動物と比べてパターンに融通性が高く、引き金となる刺激の数も多い。

 固定的動作パターンは、複雑な環境に適応し効率よく生活するために発達した「思考の近道」。今までの経験から考えなくてもおよそこうしたら正しいだろうということを反射で行えるので生活には欠かせない機能。しかし、これを利用されると、パターンを熟知しているものに操られて都合のいい反応を引き起こされかねないので危険。企業のマーケティングにも使われる。社会が複雑になるにつれて深く考えず、経験則で即断しがちになる。

 part2に続く......

 

プラトン・『国家』の教育 Education is brainwashing.

 

国家〈上〉 (岩波文庫)

国家〈上〉 (岩波文庫)

 

  哲学者プラトンが理想の国家について論じた書。原始共産制階級社会であり、元祖、全体主義ディストピア。国家を一人の人間とみなし、個人の幸福より全体の利益が優先される。

プラトンの理想とする国家の構成員は、魂の3分説(理性、気概、欲望)に倣って、3階層制

  • 守護者(哲人王)ー理性
  • 補助者(戦士)ー気概
  • 職人―欲望

 守護者や補助者の教育、出生は国によって徹底的に管理される(人口調整)。

 「最もすぐれた男たちは最もすぐれた女たちと、できるだけしばしば交わらなければならないし、最も劣った男たちと最も劣った女たちは、その逆でなければならない。また一方から生まれた子供たちは育て、他方の子供たちは育ててはならない」国の管理外で出生を行った場合、忌み子として隠される(おそらく抹殺)。生まれつき体の弱い子供も抹殺。(優生学)。 

 守護者、補助者たちは、私有財産の禁止、妻子の共有、これにより階級の世襲の禁止。哲人王の息子でも能力がなければ職人になる。これらのことは支配側が被支配側に巧妙なくじによって行い、彼らに自分で選ばせたと錯覚させる(共産主義)。

 国家の構成員は皆、喜びや悲しみを共有しなければならない。みんなが悲しんでいるときに悲しまない人間、みんなが喜んでいるときに喜んでいない人間は非国民(全体主義)。

 

 守護者、補助者たちの教育法

  • 物語による教育、「物語によって彼らの魂を造型する」・・・幼い子供に親は物語を読み聞かせる。幼年の魂には捺そうと望むままの型が捺され、この年頃に考えたものは消したり変えたりできないので、物語の内容が戦士や支配者にふさわしいものかの検閲を行う。例えば、物語の中で、英雄が死後の世界を恐れている場面➡死を恐れないように死後の世界を賛美するよう改変。死後の世界にある河、『コキュトス』(嘆きの河)や『ステュクス』(憎悪の河)は名前が恐ろしく死後の世界に対する忌避感を招くので、反対の特徴を持つ名前に改変する(ダブルスピーク。『1984年』では戦争を管轄する省の名前が愛情省)。英雄が嘆き悲しむ場面も削除。余談だが、マクドナルドも幼少期に味の刷り込みを行うのが戦略。

    マクドナルドの研究(2)

  • 音楽による教育、「リズムと調べというものは、何にもまして魂の内奥へと深くしみこんで行き、何にもまして力強く魂をつかむ」・・・音楽も物語のときと同様に歌詞、音階、拍子・韻律が検閲の対象となり、なよなよしたものは排除され、戦士や支配者にふさわしい音楽だけを聞かせる。(洗脳だ。音楽はトランス状態を呼び起こし、理性を奪う)。

  • 賤しいものごとを真似をしないようにする・・・賤しい(職人、手仕事に従事するひと)。階級制ではなく分業制かとも思ったが、明らかに職人を蔑視しており、「種族」などの不穏ワードがあったので、階級制だと確信。

  • 体育・・・スパルタに倣って、男も女も裸で体育。男女平等、女も哲人王になれる。

  • 戦争の見学・・・戦士たるもの幼少期から戦場に慣れておくべし。もちろん保護者同伴で戦いには参加しない。

 これらの教育を行ったあと、哲人王になるための教育(数学、哲学)や試練を課す。全ての工程が終わり、哲人王になれるのは50過ぎ(遅っ)。

 プラトンは民主政により師のソクラテスが死刑にされたので、民主政を嫌い、選ばれた人間で愚民を支配しなければならん!という発想に行き当たったものと思われる。たぶんソクラテスは哲人王になんかなりたがらないだろうが、プラトンは『国家』の内容をソクラテスが語るという体裁にしている(どんだけソクラテスが好きなんだ...)。

ちなみに米国トップ大学10校の課題図書ランキング
1位『国家』プラトン
2位『文明の衝突』サミュエル・P・ハンチントン
3位『英語文章ルールブック』ウィリアム・ストランク・Jr.ほか著
4位『リヴァイアサン』トマス・ホッブズ
5位『君主論』ニッコロ・マキアヴェリ
6位『アメリカの民主政治』DE・アレクシス・トクヴィル
7位『正義論』ジョン・ロールズ
8位『バーミンガム刑務所からの手紙』マーティン・ルーサー・キング・Jr.著(未邦訳)
9位『自由論』ジョン・スチュアート・ミル
10位『つきあい方の科学』ロバート・アクセルロッド著

courrier.jp

 

1位『国家』プラトン著   あっ・・・(察し) 

 

 

個を殺す無貌の群体 Crowds

 

群衆心理 (講談社学術文庫)

群衆心理 (講談社学術文庫)

 

  人間は集団になると一頭の獣になる。ル・ボン曰く、『群衆に幻想を与える術を心得ている者は、容易に群衆の支配者となり、群衆の幻想を打破しようと試みる者は、常に群衆のいけにえとなる』。調教するか、喰い殺されるか。

 単に個人が多数集合するのみではなく、個人の観念や感情が一定の方向に転じ、個性が消滅している状態が心理的群衆と呼ばれる。群衆の性質は集団間の人間の平均ではなく、新たな「群衆心理」と呼ぶべきものを獲得することでバラバラの個々人から単一の存在になる。群衆心理の特徴、

  • 大勢の中にいることで責任の観念がなくなり、専ら本能的なものに支配される。孤立していたときは教養がある人でも、群衆に加わると野蛮人と化す。個人でいたときの無力感は消え、絶大な暴力の観念が現れる。平時は温和な市民も群衆心理の中にあるときは、容易に虐殺をやってのけたり、集団の目的のために自己犠牲を躊躇しなくなる(例、殉教など)。
  • 精神的感染・・・集団間の行動、思考を模倣するようになる。
  • 被暗示性、つまり、操られやすく、信じやすい状態になる。論理的思考は消え、感情と無意識に支配され衝動と暗示に隷属する自動人形が出来上がる(平時でもこの種の人間は存在する)。この無意識を動かすのが心象〈イマージュ〉である。事実は論理的思考による推理を経ずに心の中で好き勝手に解体され心の受け取った感情で事実を歪曲する。さらに精神的感染により集団間にこの心象は伝播する。

 これら群衆の特徴をふまえた上で指導者が人間を群衆として支配下に置く方法、

  • 信念の創造・・・ばらばらの集団を一定の方向に向かせるには、彼らが信じやすい信念を用意してやる必要がある。小難しい哲学ではなく、宗教的感情を呼び覚まし、心象に刻まれるものがいい。群衆が犯罪行為を行ったとしても罪の意識は感じず、集団内でよしとされていることを実行し、義務を果たした、という思いがあるだけ。
  • 断言・・・証拠や論証を伴わない無条件的な断言が、群衆の心にしみこみやすい。心象に働きかけ、想像力を喚起させるために、言葉を選ぶときはあいまいな言葉がいい(例、平等、自由など)。強烈な感動を加えることで群衆心理を起動させることが可能、言葉ばボタンであり、どのボタンを選ぶかで群衆を操作する。筋道立ったはなしより感情に訴えたほうが群衆を扇動するには効果的。政治の混乱や、信念の変化が起こった場合、ある言葉によって呼び起こされる心象に対して、非常な反感を引き起こすときがある(群衆心理の洗脳の解けかけている状態)。そんなときは事物に修正は加えずに、その言葉を、親しみやすいもの、偏りのないものに変更することで対処する。ジョージ・オーウェルの小説、『1984年』でダブルスピーク - Wikipediaという方法が使われているのが好例(ダブルスピークは現実でもよく使われる。リンクを参照)。このように、無防備なこころにとって言葉は魔術である。
  • 反覆・・・断言を反覆し強化。1度言われて信じないことも100回きかされると信じてしまう。
  • 感染・・・人間の模倣性を利用。皆が模倣できるように群衆が抱く信念は簡潔明瞭でなければならない。少数の賢い人間の考えが世論にならないのは小難しくて論理的思考を必要とするので感染力がないから。断言と反覆が集団内で了解され、意見の趨勢ができる。

 ル・ボンは民衆が余計な知恵をつけないようにと、学校教育を否定し職業の訓練だけしろと言ったり、実に西洋的な思想を披露している。フランス革命時の群衆の力に恐怖して、群衆を統治、操る方法もご丁寧に書いてくれている。群衆を統治する方法は今でもマスコミや広告会社、カルトが使うので注意が必要だ。

 参考動画

www.youtube.com

 

 

 

迫るアテナイの刻限 Greece suffers a storm of death.

 前430年、アテナイは死骸積み重なる地獄と化していた。

 ペルシア戦争の折には一致団結して戦ったギリシャであったが、戦勝に随一の功があったアテナイが突出した力をつけていくにつれ他の都市間との不和が発生。膨張するアテナイに恐怖したスパルタはアテナイとの開戦にふみきる。ギリシャアテナイの同盟、スパルタの同盟に二分され、ギリシャ全土を巻き込んだ内戦、ペロポネソス戦争が始まった。このペロポネソス戦争の戦史をアテネの歴史家トゥキディデスが書き残している。

 

歴史 上 (ちくま学芸文庫)

歴史 上 (ちくま学芸文庫)

 

 

 

 トゥキディデスはこの記録を描いた意図として、人間の本性が変わらない限り同じことが繰り返されるので、この戦争の記録が後世のための参考になれば、と思ったそうだ。そのため極限状態に陥った人間の姿が非常に生々しく書かれている。2つほど印象に残った場面をまとめておく。

  • 病魔に堕ちるアテナイ・・・スパルタとの戦の際、アテナイは海兵以外の人間、アテナイ都市外の田園の農民を全員アテナイの都市内に避難させ、籠城戦を採った。陸上ではスパルタには敵わないので主要の戦闘を海上戦に任せ、陸での戦いは徹底的に防御に徹する作戦だった。しかし折悪く疫病が発生(ペストと思われる)。疫病に見舞われた人間は高熱、下痢、潰瘍、炎症などの症状に襲われ、10日ほどで衰弱死していった。死なずにすんだものも失明や記憶喪失などの治しがたい後遺症を自らのからだに刻むことになった。地方の人間を無理矢理都市に押し込んだせいで地方民は屋外での生活を強いられていた。彼らは劣悪な環境で病魔に侵され、その死体は野ざらしにされ疫病の猛威を拡大させた。この疫病が罹患者にもたらす最も恐ろしい症状、それは「絶望」だった。疫病の恐ろしさを目の当たりにしたものたちは疫病に自分が罹ったときに容易く自らの運命を諦めた。ここにおいて人心の荒廃極まる。神殿すら、入りきらない死体の収容所として使われた。トゥキディデス曰く、『災害の暴威が過度につのると、人間はおのれがどうなるかを推し測ることができなくなって、神聖とか清浄などといういっさいの宗教的感情をかえりみなくなる』。アテナイ市内はかつてない無秩序に見舞われた。明日にも死ぬいのちだと悟ると人は平時に慎むであろうことも公然と行うようになり、犯罪行為が横行した。未来のための努力は鼻で笑われ、死ぬまでの一時を享楽の限りで尽くそうとした。社会的な掟も拘束力を失う。悪を犯しても裁かれるまでもなく命がないのだからと。金持ちも金で命は買えず、死体からは容赦なく財貨を奪われ昨日の貧乏人が今日の金持ちになる。それも長くは続かず、同じことが繰り返される。善人も悪人も等しく裁かれる場では、善悪の観念は機能しなくなっていた。この疫病でアテナイは人口の3分の1が死亡、さらにアテナイの指導者ペリクレスも、この戦争の初期段階で同じく疫病に罹り、死亡した。ペリクレスという優秀な指揮官を失ったことで、アテナイは今後、民衆に媚びを売ることで歓心を集める扇動政治家(デマゴーグ)の指揮下に入り、さらに混沌の坩堝に叩きこまれることになる。
  • ギリシャ全土の虐殺合戦・・・民衆派アテナイ、寡頭派スパルタのどちらにつくかで諸都市は分裂し内戦状態になる。アテナイが相手国の政体改革を餌に国内の叛乱分子を武器として利用するという手段を使ったこともこの戦いに拍車をかける。ここで反対派に対する虐殺が公然と行われるようになる。人間の生活が根底から覆った混乱に乗じ、反対派のレッテルを貼ることで私的な恨みを晴らすものもいた。人殺しが日常になっている今のうちにということか。トゥキディデス曰く、『言葉すら本来それが意味されていた対象を改め、それをもちいる人の行動に即してべつの意味を持つこととなった』。例えば、無思慮➡勇気、先見➡臆病、沈着➡卑怯、悪➡利口、善➡馬鹿、という風に。党派のつながりは肉親のつながりより優先された。中立派は両極のものたから不協力を咎められ、壊滅した。彼らは完全に血に酔っており、虐殺の度合いは完全に度を越していた。以外にも生き残ったのは、権謀術数に優れぬものたちが多い。彼らは自分の弱さを知っており、常に警戒を怠っていなかったからで、なまじ策を弄したものは策が失敗すると一挙に破滅に追い込まれた。

 適当なところで休戦条約を締結しておけばよいのにと思うかもしれないが、名誉欲、支配欲に侵されたアテナイはもはや引き際を失っていた。アテナイの指導者は巧みな言葉で民衆を扇動し戦争を実行する。アテナイの市民も完全に批判能力を喪失した群衆と化していた。勝敗が決定的になったのは、シケリア遠征で大敗北を喫し、得意の海上戦を行う船がほぼ壊滅したことだった。ここで名将デモステネスも処刑された。それ以後も散発的に戦を行うが、アイゴスポタモイの戦いで敗れ、制海権穀物輸送路をおさえられ、アテナイはスパルタに全面降伏した。

 

 

 

テミストクレス(前520~前460) The victory of free citizens is brought about by the wisdom of one man.

『お前は詰まらない人間にはならない。非常に偉いものになる。善いにしても悪いにしても』

 アテナイの政治家で軍人、ペルシア戦争の立役者であるテミストクレスの子供時代に教師が送った言葉。テミストクレスは子供時代から聡明で政治を好む傾向にあった。宿題が終わっても子どもらしい遊びには興ぜずに演説や弁論の練習をしたりしていた。学業の中でも人格を作る倫理の授業や快楽や趣味に関してのものは嫌い、物事の実行や理解に関わる実務的なことを好んだ。

 政治家になったテミストクレスは名誉心を第一に考え、金にがめつい狡猾な人間になっていた。敵対政治家を陥れて追放したり、島々を回って金を回収したりと節操のないことばかりやり、しかもなまじ頭の回転がはやいので大抵のことは成功させた。敵対政治家で正反対の性格をもつアリステイデスはテミストクレスのことを評して、『この人は賢明であるが、自分の手を控えることができない』と言った。このアリステイデスさん、何度もテミストクレスに嫌がらせをされている(大体、アリステイデスが窮地に陥るのはテミストクレスの仕業)がペルシア戦争のときはそのことを水に流して一致団結してペルシアと戦ったり、そのほかにもいくつもの善人エピソードをもつかなりの好人物である。そんなわけで、テミストクレスは頭のよさをはなにかけて好き放題やるうざい奴、というのがアテネ市民の総意であったが、このテミストクレスの性格的傾向によりアテナは救われることになる。

 このころギリシャはペルシア帝国の侵略を受けていた。マラトンの戦でペルシアを退けたギリシャは受かれていたがテミストクレスは次の決戦に備え、市民に分配されるはずの銀山のかねを造船につかった。このときの説得の仕方も賢く、遠くのペルシア攻めてくると言っても説得に応じないだろうから近くのアイギナに対する敵対心を煽ることで市民たちの納得を得た。全兵力の投入のために女こどもを疎開させ一般市民も船の漕ぎ手として徴収するときは道理で説得しても民衆の理解を得られないと考えデルフォィの神託を利用し(この時代ではかなり不遜では?)神のことばとして自身の考えを補強した。最終的に海戦によってペルシア軍をぼろぼろに打ち負かし深追いもせずペルシア王を撤退させた(ペルシアは兵力が多すぎるので泥沼になるとギリシャ側の不利、アテネも一時占領され壊されていた)。ペルシア王が撤退するときにテミストクレスは、「王が逃げられるように追跡を遅らせます!」と言って恩を売った(マッチポンプ…)。

 その後戦勝の第一の功労者としてテミストクレスはみんなから嫌々ながら(!)も認められ羨望と嫉妬を集めた。しかし陰謀に加担したかどで逮捕されそうになり恩を売っていたペルシアに亡命した。ペルシア王は快く迎えた(ペルシア王は馬鹿なんだろうか)。テミストクレスはお得意の口八丁手八丁でペルシア王のお気に入りになり悠々自適な生活を送る。そのことをペルシアの臣下に、『色の定まらないギリシャ人の蛇奴、王様の守護神がとうとう貴様をここへつれてきた』と揶揄された。死因ははっきりしないがギリシャと戦うことになったが、もう十分の功績と名誉を得ているのでそれに泥をぬるようなことはしたくないと言って自殺したらしい。らしくない気もするが、もう老年なので、きりよく終わりたかったのかもしれない。人生は完結!といったところか。

 こんな男だが彼の名誉心からくる智略、どんな手段もいとわない狡賢さがあったからこそペルシアの大軍にギリシャは打ち勝てたのだろう。テミストクレスが下層市民まで船の漕ぎ手として徴収したことで戦に加わった市民の発言力が高まり、アテネはより民主政の色を強くしていくことになる。

 ところで、ペルシア戦争を描いた『300』という映画があるが、そこでのテミストクレスは普通のヒーローっぽくて全然イメージに合わなかったな……

 

古代ギリシアの歴史 ポリスの興隆と衰退 (学術文庫)

古代ギリシアの歴史 ポリスの興隆と衰退 (学術文庫)

 

 

ソロン(前640~前560) The owl of Minerva with the democratic.

 

  • 雲から雪や霞はもたらされ、光る稲妻から雷鳴は生じる。そのごとくに、強力な男たちによって国家は滅び、民衆は知らぬ間に独裁者に隷属することになるのだ。
  • 言葉は行為の影である。
  • 独裁政は美しい場所であるが一旦登ってしまうと降りる道がない。
  • 独裁者の下で権力を権力をふるっている連中は計算に用いられる小石のようなものだ。
  • 心をとらえる男の舌をよく見ろ、言葉をよく見ろ。あなた方の一人一人は狐の跡を歩いているのだ。あなた方皆の頭は開け放し。
  • 不正な目にあっていない人たちが、不正な目にあっている人たちと同じように憤りを感ずるならば、不正行為がいちばん少なくなる。
  • 人生は終末を見なければならない。不確実な推測だけでいい気になって傲慢に振舞ってはならない。

 前文はギリシア七賢人の一人、ソロンのことば。独裁制が嫌いで民主制を擁護。種々の制度改革を行いアテネ民主政の基を築く。ソロンは、アテナイが独裁者ペイシストラトスを喜んで迎えたことに対して、「お前らどうなっても知らんからな」と言っているが実際にはペイシストラトスは善政を行ってアテナイに繁栄をもたらした。しかし、これは結果論であってソロンの独裁政への指摘は間違ってないだろう。独裁政は裁量権が独裁者に一任されるために独裁者が有能なら他の政体よりも善い政治ができるかもしれないが、無能な独裁者にあたった場合には最悪な結果をもたらす諸刃の刃なのである。

 実際、ペイシストラトスの政権奪取の方法も恐ろしい。ペイシストラトスは自らの体に傷をつけ、これを反対派にやられたものとし、護衛兵の設置を民会に認めさせ、この武力を以てアクロポリスを占拠して統治権を得ている。ペイシストラトスの行った独裁者的政策として、「市民からの武具の取り上げ」「市民たちの多くを田園に住まわせ農耕に従事させる」があるがこれは市民を生活に埋没させ、政治にいらぬ口出しをさせないようにするための手法であった。そして政治の要職には一族や支持者だけを就け、独裁者ペイシストラトスに対する反乱分子の可能性を奪っている。ペイシストラトスは純粋に国のためを思い、この合理的な体制を築いたが悪意あるものが同じ座についていたらどうなっていたか。

 ソロンは「人生は終末を見なければならない」という言葉からわかるとおり長期的な視野を持った人物だった。ペイシストラトスのときはよくてもその後はどうするんだということになる。ハズレの独裁者をひいたら国家の危機である。ペイシストラトスのあとを息子が継ぐが、結局追放される。やはり独裁政は安定しない。そのためか後に陶片追放の制度ができる。独裁者になる恐れのある人物をあらかじめ投票により国外追放にする制度。悪用が目立ち数十年で廃止になったそうだが。

 ソロンとペイシストラトスは友人同士で目指す政治が正反対のものであっても交流は続いた。このことからソロンとペイシストラトスが同性愛の中にあるとウワサが出たらしい。さすが少年愛のメッカというべきか。どちらも少年ではないのでそれはないという反論もある。いつの世も自分の妄想の中でカップリングを作ろうとする輩はいるのだろう。

↓(この本、旧字体なので注意!)